むかしむかしとある国の 美しいお姫様に 未熟者の小姓が 熱烈な恋をした 恋文をしたためて 無礼者と破り捨てられ 斬首台にかけられた 物語は誰も知らない 地位も名誉も残せなかった 男が残したものは 強い志で駆け抜けた 弛まぬ十四年の歴史 忘れられた童話 あなたが奏でる物語 心がある限り 羊皮紙とペンは消えはしない その足跡が たとえ誰にも見えなくとも 大地の片隅を ためらうことなく歩いてゆけ 小学校の卒業式 記念碑に残す手形 恥ずかしいと逃げ出した 俺の手形だけが見つからない 大人になり損ねた足で ひとり石碑を蹴飛ばしたら 手形たちに嗤われた お前の不在は刻まれてる 鳥も草木も路傍の石も 全てが語り部になる この身を騙し続けた過去に 騙されないかを見つめてる 忘れられた童話 誰かが読んでる物語 嘘の裏の傷も 迸る筆で描かれてる 涙で滲む 絵の具が乾き切らなくとも ページを闘わせ ためらうことなく歩いてゆけ おとぎ話に疲れ果て 垢だらけのペンを投げ出した 忘れられる物語なんて 書き続けてても仕方がない 最終章を破いたら 登場人物に怒鳴られた 俺はお前を見てきたのに お前は俺たちを捨てるのか 孤独の生死に酔いしれたつもりか 存在の数だけ それぞれの物語がある その一つ一つが 世界を紡ぐ欠片となる 詩から消えるべき 言葉なんてあるわけがない 詩から消えるべき 罵声さえもあるわけがない 忘れられた童話 みんなが奏でる物語 刹那の輝きは 多くの輝きと共にある 時の彼方に その童話が埋もれようとも みんなのために 自分のために歩いてゆけ |